自己包囲した本田

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特許無効化の答弁対応の際には、後続する特許権侵害訴訟の影響を予め考えておくべきである。—中国の最高裁判所は本田-雙環の案件について、特許無効化及び特許権侵害両方に対し同じ判断基準を援用し、結果、本田は意匠権の有効性を維持できたが、その反面、雙環の製品に対する特許権侵害訴訟は敗訴となった。

案件の背景

本田技研工業株式会社(以下「本田」)は、2003年11月に石家莊雙環汽車株式会社(以下「雙環」)に対し、特許権侵害訴訟を提起した。訴えられた製品LAIBAO S-RVと本田のCR-Vの外観は酷似している。しかし本田は2003年にCR-Vの中国意匠特許(CN3222860S,以下「’860号特許」)を取得しており、2003年9月18日より雙環とそのディーラーに向け警告状を発送し、雙環に特許権侵害行為の停止を要求した。

しかし雙環はこの要求を無視しLAIBAO S-RVを販売し続けたため、本田は中国の関連会社を通じ、中国政府の特許管理部門に対し、書面で雙環の特許権侵害行為を告発した。さらに、新聞やインターネットなどの公共メディアを通じ、雙環の製品は本田の特許権を侵害している旨指摘した。本田は特許権侵害訴訟を提起し、併せて巨額の賠償金を主張した。

2003年12月24日、雙環は’860号特許に対し無効化請求を提出した。特許複審委員会は2006年に8105号無効化を決定し、’860号特許の無効が宣告された。本田はすぐに行政訴訟を提起したが、2009年7月6日、8105号無効化決定に基づき、石家莊中級人民裁判所は本田の特許権侵害訴訟を拒絶した。しかし、2010年に最高行政裁判所は8105号無効化決定を取り消し、この民事判決は原裁判所へ戻り、再審が行われた。

本田は2011年6月22日に元訴訟を撤回し、併せて2011年9月9日に原裁判所へ訴訟を再提起し、さらに、損害賠償金を34,857万元人民幣まで増額した。初審敗訴後、本田は最高人民裁判所まで上訴を続け、13年に及んだ訴訟は、2015年遂に終局を迎え、本田は最終的に敗訴した。

自己矛盾の本田

この’860号特許は、特許複審委員会においても、行政訴訟一、二審においても、「全体的な視覚効果」の基準に従って新規性がないと判断された。最高裁判所は「装飾効果を有する一部のデザインは、全体的な視覚効果に対し明らかな影響を有する」とする本田の主張を受け入れた。即ち最高裁判所は、’860号特許がヘッドランプ、フォグランプ、フロントフェンダー、リアコンビネーションランプ、グリル、リヤバンパー、サイドウィンドウ、ルーフラインなどの部分において、従来の技術と比較すれば差異が存在することを認め、8105号の無効決定を取り消した。

この特許権侵害訴訟において、最高裁判所は訴えられた製品と’860号特許の差異を比較し、例えば、ヘッドランプ、フォグランプ、フロントとリアフェンダー、リヤコンビネーションランプ、リア、トップ、ルーフライン、フロントグリル、ボンネット、ボンネットの中央部、サイドミラー、サイドライトなどの差異をそれぞれにリスト化し、全体的な視覚効果に著しい影響を有するか否か、一般消費者が両者の差異を分別できるか否かを鑑み、訴えられた製品は’860号特許權の保護範囲に含まれないと最終決定された。

この訴訟において、最高裁判所は「全体的な視覚効果」という原則を希薄化した。ある報道によると、消費者は車のような大型商品を購入する際には、全体的な外観のほか、相対的な局部デザインにも目を向ける。従って、大型商品のデザインに対する特許有効性判断と特許権侵害判断を行う際には、局部の差異により多くの注意を払うべきである。本田は上記の答弁策略を取ることを余儀なくされたことで’860号特許の有効性を維持した、或いは、これは単純な訴訟策略の機能不全問題ではあるが、とはいえ、この事例は再び特許検索の重要性を喚起してくれた。

雙環のうわべの勝利と本質的敗北

一方、雙環は本田に対し反訴を提出した。雙環は本田の訴訟は中国の競合品を抑圧ブロックし、不正な競争利潤を得たことを指摘し、さらにLAIBAO S-RVの販売不振と生産停止を全て本田のせいにし、36,574万元人民幣の賠償を請求した。裁判所は、本田が特許権侵害の事実と証拠を提示せず、マスコミなどのルートを通じ內容不明確な警告状を発送する行為は、単純な特許権維持行為を超えているとした。もし特許権者が特許権侵害の警告状を濫用し、競爭相手の正当な権利を損害した際には、相応の責任を負うべきであり、よって最終的に本田は雙環に対し1,600万人民元人民幣を賠償することとなった。

多くの報道は、雙環の勝訴は剽窃模倣製品の横行をますます加速させるものと評したが、奇跡的に勝訴した雙環は、2016年2月、その乗用車生産資格を中国政府により剥奪された。これが中国政府による模倣メーカーに対する態度の契機か否かはまだ分からないが、今後の注目に値する。

参考資料:
(1) 本田が中国の汽車企業の模倣侵害を訴えたが、かえって敗訴し1600万元人民幣を賠償した(http://goo.gl/FHRY0L)
(2) 本田の意匠特許の無効化案件から、全体的な観察原則の適用を検討する(http://goo.gl/MMIDQ7)
(3) 中国の最高裁判所:本田が双环汽车を訴えた意匠特許侵害案は13年もかかった敗訴で終了(終審判決書)(http://goo.gl/xrnVkM)
(4) 雙環の模倣品CR-V なぜこの訴訟を勝ったの?しかも本田に千万元人民幣以上の賠償額をかかられた?(http://goo.gl/5AnUCw)(http://goo.gl/5AnUCw)

執筆:
郭意君,PIIPプロジェクト・スペシャリスト