中国発明専利出願ショートカット-PPH特許審査ハイウェイ
PPH早期審査制度
特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway;PPH)とは、世界の多数の国/地区の特許庁間の取り決めに基づく協議制度の一種であり、最も早くは2006年に米国特許庁(USPTO)と日本特許庁(JPO)の間で開始された。2015年7月時点で、中国国家知識産権局(SIPO)を含む世界36の特許庁が参加している。
世界各国の特許性評価基準は基本的に大差はないため、PPHはワークシェアリングの概念から、同一発明につき不要な重複審査を避ける。世界の特許出願数が増加する一方で審查資源が有限である問題を解決し、審査コストを有効に省き審査効率を高めることを可能とする。特許出願人にとって、PPHはグローバル出願の審査時間を大幅に短縮するのみならず、コストを削減し、特許率を向上させる。併せて、パテントファミリーの保護範囲の一致性を確保し、多くの国において将来的な特許権の保護と行使を有利にする。
PPH 三種のルート
◇二国間のPPH
二国間PPHはPPHの最も基本的なモデルであり、協議を締結した二か国間の特許庁に対し適用される。下図の通り、出願人の第1庁(先行庁 (Office of First Filing; OFF) )における特許出願が、1又は複数の特許可能と判断されたクレームを有し、先行出願と後続出願のクレームが十分に対応することを前提に、第2庁(後続庁(Office of Second Filing; OSF))に対し後続出願の早期審査を請求できる。
◇PCT-PPH
二国間PPHと似ており、PCT出願人は国際調査機関(ISA)或いは国際予備審査機関(IPEA)を第1庁(先行庁)とみなし、その作成にかかる肯定的意見を有する見解書、又は国際調査報告(ISR)或いは国際予備審査報告(IPER)を第2庁(後続庁)に提出し早期審査を申請できる。
なお、留意すべき点として、上記二種のPPHは、第1庁(先行庁)の定義が比較的厳格である:第1庁(先行庁)は、当該特許の最初の出願先(第一庁)でなければならない、つまり、第2庁(後続庁)への出願日が第1庁(先行庁)への出願よりも先立ってはならず、かつ、第2庁(後続庁)は第1庁(先行庁)の審査結果のみを採用でき、第三国の審査結果を使用できない。
この他、第1庁(先行庁)の審査結果は、第2庁(後続庁)においては参考に過ぎず、第2庁(後続庁)の審査結果を保証するものではない;つまり、同様のクレームにつき、第1庁(先行庁)で特許可能となったとしても、第2庁(後続庁)においても特許可能となることを意味するわけではない。
◇PPH MOTTAINAI
PPH MOTTAINAIとはより緊密な多国間PPHであり、第1庁(先行庁)及び第2庁(後続庁)の定義が従来のPPHに比べ緩和される。下図の通り、PPH MOTTAINAIは審査結果の出された順をもって「先行審査庁(Office of Earlier Examination; OEE)」及び「後続審査庁(Office of Later Examination; OLE)」を定義する。各国の審査速度は異なるため、この多国間PPH制度はグローバル出願をする出願人にとって多くのメリットがある。
先行審査庁(Office of Earlier Examination; OEE):特許可能
後続審査庁(Office of Later Examination; OLE):PPH申請
また、先行出願がPPH MOTTAINAI非参加庁であっても、PPH MOTTAINAIの適用に影響しない。このような場合、出願人は第三国との二国間PPHをもって、早期審査を利用できる。(ケース2参照)
中国国家知識産権局(SIPO) へのPPH申請
中国国家知識産権局(SIPO)は2011年より、日本、アメリカ、ドイツ、韓国、ロシア、フィンランド、デンマーク、メキシコ、オーストリア、ポーランド、カナダ、シンガポール、スペイン、ポルトガル、イギリス、イスラエル、アイスランド、スウェーデン等多くの国々と二国間PPH試行プログラムを打ち立てた。
この他2014年1月には、SIPO、USPTO、JPO、欧州特許庁(EPO)、韓国特許庁(KIPO)、計5つの特許庁により「五庁特許審査ハイウェイ(IP5 PPH) 試行プログラム」が締結された。試行期間を三年とし、PPH MOTTAINAIに属する多国間PPHの一種として、一般の二国間PPHに比べその適用範囲は広く、かつ、手続はより簡易である。
中国特許の出願人はPPH制度を十分に活用すべきであり、専門の代理機関による協力のもと、自己に有利なPPHルートと最適な申請のタイミングを選択することで、有効に審査期間を短縮し、同時に特許率を向上させることができる。
しかしながら、SIPOにとってPPHは新たな業務のため、PPH申請審査に対してはやはりなお厳しく、柔軟性を欠く。中国出願につきPPH申請が滞りなく認められるよう、出願人は以下のSIPOの審査原則及び出願要点を把握しておくべきである:
●中国出願に対し少なくとも一つの「適格他国におけるの対応出願」が存在し、かつ、当該対応出願は「適格庁において、少なくとも一つ以上の特許性あり/特許可能と判断されたクレーム」を備えている。
二国間PPHとIP5 PPHどちらも適用できる際には、IP5 PPHを優先的に選択すべきである。IP5 PPHでは、もし対応出願のクレーム及び審査意見通知書がその他四庁のファイル検索システム(例えばUSPTOのPublic PAIRシステムなど)を介して入手可能な場合、出願人は、SIPOからの要請がない限り、申請書に必要事項を明記するのみでよく、上記二種の書類につき実際に提出する必要はない。
●中国出願と対応出願の「クレームが十分に対応」。SIPOは当該出願が対応出願と同一或いはより狭い範囲のクレームを有することを要件とする。かつ、PPH申請を有利に進行させるため、PPH審査官が両出願は十分に対応するものと認識できるよう、両案のクレームは文字上においても極力一貫性を保つべきである。従ってPPH申請前、出願人は自主補正可能期間(実体審査請求時、及び実体審査移行通知書受領から三か月以内)に留意し、両案クレームの十分な対応を確保すべきである。
●中国出願が公開されており、かつ実体審査段階に入っているが、審査意見通知書を受領していない(例外として、出願人は実体審査請求と同時であればPPH申請をすることができる)。
●対応出願が特許査定を得た後にPPH申請をすることが望ましく、それにより、提出書類が減り、両庁での人為的ミスの可能性が減少し、さらにはPPH申請の承認成功率を引き上げる。
●PPH申請の審査に際して、SIPOは英語を翻訳言語として認める。つまり出願人は、米国対応出願の相関書類の中国語訳を提出する必要はない。
●PPH申請費は無料。
中国におけるPPH制度の活用
PHH早期審査制度は、技術回転率が高くグローバル出願需要の高い出願人に対し、簡便かつ効率的なグローバル特許ポートフォリオを提供する;中国が近年着手するPPH試行プログラムが安定的に実施されることで、提携国家/地区は徐々に拡大し、期間も延長された。それにより、SIPOの提供するPPH制度を十分に活用することで、中国市場において特許保護を望む出願人は、コストと時間を省きながら特許査定を獲得し、中国市場において早期に特許権を保護行使できるようになる。
参照:
http://www.jpo.go.jp/ppph-portal/index.htm
http://www.sipo.gov.cn/ztzl/ywzt/pph/
http://www.patsnap.com/article/id-82
著者:
王傑美博士,PIIP米国パテント・エージェント